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博士論文 / 正常上皮細胞層からの変異細胞の逸脱を制御するミオシン-II–スペクトリン複合体の役割の解明

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書誌事項

タイトル

正常上皮細胞層からの変異細胞の逸脱を制御するミオシン-II–スペクトリン複合体の役割の解明

著者名

髙城幹太

学位授与大学

Hokkaido University(北海道大学) (大学ID:0001) (CAT機関ID:KI000017)

取得学位

博士(理学)

学位授与番号

甲第13394号

学位授与年月日

2018-12-25

注記・抄録

がんの発生過程は、1つの正常な細胞に1つのがん原遺伝子が変異することから始まるとされている。変異した細胞には、さらに複数の変異が生じる。その後、複数の変異が生じた細胞が無秩序に増殖し、悪性化及び転移を経て、がんが発生すると言われている。この考え方を多段階発がん説という。 近年の研究では、がん発生過程の初期段階において、がん原遺伝子である Src もしくは Ras が変異した細胞が、正常上皮細胞層の管腔側へとしばしば逸脱し、排除されることが判明している (Apical extrusion) 。この現象は、隣接する細胞が正常細胞ではなく、変異細胞であった場合には生じないということが知られている。したがって、正常細胞層から変異細胞が排除される、もしくは細胞死する現象は、正常細胞と変異細胞の間に生じる、細胞競合現象の一つである。 細胞競合現象に関する最近の研究では、正常細胞層に囲まれた変異細胞において、細胞骨格タンパク質であるや EPLIN やプレクチン、パキシリンが集積し、正常細胞に囲まれた変異細胞の Apical extrusion に重要な役割を果たすことが報告されている。また、変異細胞に隣接する正常細胞において、細胞骨格タンパク質であるフィラミンが集積し、変異細胞の Apical extrusion に重要な役割を担うことも報告されている。しかし、正常上皮細胞層から変異細胞を管腔側へと逸脱し、排除させる分子メカニズムは、未だ明らかとなっていない点が多く存在する。 また近年、ミオシン-II の細胞競合現象への関与も注目さている。ミオシン-II は、細胞の移動や分裂に重要な働きを及ぼす細胞骨格タンパク質である。ミオシン-II は重鎖と軽鎖から構成されている。ミオシン-II の活性は、ミオシン軽鎖がリン酸化される10ことによって制御される。また、ミオシン軽鎖のリン酸化は、正常細胞に囲まれた変異細胞において亢進されることが報告されている。さらに、ミオシン-II の活性を抑制するブレビスタチンを添加することによって、正常細胞に囲まれた変異細胞の Apicalextrusion が抑制されることも分かっている。したがって、正常細胞に囲まれた変異細胞におけるミオシン-II の活性が、変異細胞の Apical extrusion に対して重要な役割を担うことがこれまでの研究で明らかとなっている。しかし、正常細胞に囲まれた変異細胞内のミオシン-II の局在が、変異細胞の Apical extrusion に対してどのような働きをするのか、未だ明らかとなっていない。 本研究では、イヌ腎尿細管上皮細胞由来である MDCK (Madin-Darby canine kidney)細胞を用いて、1) 正常細胞に囲まれた変異細胞におけるミオシン-II が変異細胞の正常上皮細胞層からの逸脱に対する作用を明らかにすること、2) 正常細胞と変異細胞の混合培養条件下において、ミオシン-II と結合するタンパク質の探索及び同定すること、を目的とした。本研究が進むことにより、ヒトのがんに対する予防医学において、新規的な治療法を確立することに繋がると考えている。 まず、MDCK 正常上皮細胞に囲まれた MDCK-pTR cSrc Y527F 変異細胞において、非筋肉型ミオシン-II の重鎖である NMHC-IIA (non-muscle myosin heavy chain-IIA) の局在に特異的な変化が生じるのか調べた。すると、Src 変異細胞の単独培養時と比べ、正常細胞に囲まれた変異細胞において NMHC-IIA が強く集積することが示された。また、Src 変異細胞における NMHC-IIA の発現を抑制させると、正常細胞に囲まれた Src 変異細胞の Apical extrusion の効率が低下することが分かった。この結果、変異細胞において集積した NMHC-IIA が、正常細胞に囲まれた Src 変異細胞の Apicalextrusion を積極的に制御することが明らかとなった。11 さらに、正常細胞と変異細胞の混合培養条件下において、NMHC-IIA と結合するタンパク質を解析した。すると、混合培養条件下において NMHC-IIA と強く結合するタンパク質として、スペクトリンを同定した。また、正常細胞に囲まれた Src 変異細胞におけるスペクトリンのβ鎖であるβ-spectrin の局在の特異的な変化を調べた。すると、正常細胞に囲まれた Src 変異細胞では、単独培養時よりもβ-spectrin が強く集積した。さらに、β-spectrin の発現を抑制させることで、正常細胞に囲まれた Src 変異細胞の Apical extrusion が抑制されることが分かった。その上、正常細胞に囲まれた Src 変異細胞におけるβ-spectrin の集積は、NMHC-IIA の下流で制御されることが明らかとなった。 以上の結果をまとめると、MDCK 正常上皮細胞層に囲まれた Src 変異上皮細胞における、ミオシン-II 及びスペクトリンが細胞非自律的に集積し、正常上皮細胞に囲まれた Src 変異細胞の Apical extrusion に対して重要な役割を担うことが示された。また、正常細胞に囲まれた変異細胞において集積したスペクトリンがミオシン-II の下流で制御されることも示された。本研究を通じて得られた知見が、正常上皮細胞層に囲まれた変異細胞の Apical extrusion の分子メカニズムをより詳細に解明することへ繋がると考えられる。

90p

Hokkaido University(北海道大学). 博士(理学)

がんの発生過程は、1つの正常な細胞に1つのがん原遺伝子が変異することから始まるとされている。変異した細胞には、さらに複数の変異が生じる。その後、複数の変異が生じた細胞が無秩序に増殖し、悪性化及び転移を経て、がんが発生すると言われている。この考え方を多段階発がん説という。 近年の研究では、がん発生過程の初期段階において、がん原遺伝子である Src もしくは Ras が変異した細胞が、正常上皮細胞層の管腔側へとしばしば逸脱し、排除されることが判明している (Apical extrusion) 。この現象は、隣接する細胞が正常細胞ではなく、変異細胞であった場合には生じないということが知られている。したがって、正常細胞層から変異細胞が排除される、もしくは細胞死する現象は、正常細胞と変異細胞の間に生じる、細胞競合現象の一つである。 細胞競合現象に関する最近の研究では、正常細胞層に囲まれた変異細胞において、細胞骨格タンパク質であるや EPLIN やプレクチン、パキシリンが集積し、正常細胞に囲まれた変異細胞の Apical extrusion に重要な役割を果たすことが報告されている。また、変異細胞に隣接する正常細胞において、細胞骨格タンパク質であるフィラミンが集積し、変異細胞の Apical extrusion に重要な役割を担うことも報告されている。しかし、正常上皮細胞層から変異細胞を管腔側へと逸脱し、排除させる分子メカニズムは、未だ明らかとなっていない点が多く存在する。 また近年、ミオシン-II の細胞競合現象への関与も注目さている。ミオシン-II は、細胞の移動や分裂に重要な働きを及ぼす細胞骨格タンパク質である。ミオシン-II は重鎖と軽鎖から構成されている。ミオシン-II の活性は、ミオシン軽鎖がリン酸化される10ことによって制御される。また、ミオシン軽鎖のリン酸化は、正常細胞に囲まれた変異細胞において亢進されることが報告されている。さらに、ミオシン-II の活性を抑制するブレビスタチンを添加することによって、正常細胞に囲まれた変異細胞の Apicalextrusion が抑制されることも分かっている。したがって、正常細胞に囲まれた変異細胞におけるミオシン-II の活性が、変異細胞の Apical extrusion に対して重要な役割を担うことがこれまでの研究で明らかとなっている。しかし、正常細胞に囲まれた変異細胞内のミオシン-II の局在が、変異細胞の Apical extrusion に対してどのような働きをするのか、未だ明らかとなっていない。 本研究では、イヌ腎尿細管上皮細胞由来である MDCK (Madin-Darby canine kidney)細胞を用いて、1) 正常細胞に囲まれた変異細胞におけるミオシン-II が変異細胞の正常上皮細胞層からの逸脱に対する作用を明らかにすること、2) 正常細胞と変異細胞の混合培養条件下において、ミオシン-II と結合するタンパク質の探索及び同定すること、を目的とした。本研究が進むことにより、ヒトのがんに対する予防医学において、新規的な治療法を確立することに繋がると考えている。 まず、MDCK 正常上皮細胞に囲まれた MDCK-pTR cSrc Y527F 変異細胞において、非筋肉型ミオシン-II の重鎖である NMHC-IIA (non-muscle myosin heavy chain-IIA) の局在に特異的な変化が生じるのか調べた。すると、Src 変異細胞の単独培養時と比べ、正常細胞に囲まれた変異細胞において NMHC-IIA が強く集積することが示された。また、Src 変異細胞における NMHC-IIA の発現を抑制させると、正常細胞に囲まれた Src 変異細胞の Apical extrusion の効率が低下することが分かった。この結果、変異細胞において集積した NMHC-IIA が、正常細胞に囲まれた Src 変異細胞の Apicalextrusion を積極的に制御することが明らかとなった。11 さらに、正常細胞と変異細胞の混合培養条件下において、NMHC-IIA と結合するタンパク質を解析した。すると、混合培養条件下において NMHC-IIA と強く結合するタンパク質として、スペクトリンを同定した。また、正常細胞に囲まれた Src 変異細胞におけるスペクトリンのβ鎖であるβ-spectrin の局在の特異的な変化を調べた。すると、正常細胞に囲まれた Src 変異細胞では、単独培養時よりもβ-spectrin が強く集積した。さらに、β-spectrin の発現を抑制させることで、正常細胞に囲まれた Src 変異細胞の Apical extrusion が抑制されることが分かった。その上、正常細胞に囲まれた Src 変異細胞におけるβ-spectrin の集積は、NMHC-IIA の下流で制御されることが明らかとなった。 以上の結果をまとめると、MDCK 正常上皮細胞層に囲まれた Src 変異上皮細胞における、ミオシン-II 及びスペクトリンが細胞非自律的に集積し、正常上皮細胞に囲まれた Src 変異細胞の Apical extrusion に対して重要な役割を担うことが示された。また、正常細胞に囲まれた変異細胞において集積したスペクトリンがミオシン-II の下流で制御されることも示された。本研究を通じて得られた知見が、正常上皮細胞層に囲まれた変異細胞の Apical extrusion の分子メカニズムをより詳細に解明することへ繋がると考えられる。

北海道大学. 博士(理学)

キーワード

src, 上皮細胞, Apical extrusion, ミオシン-II, スペクトリン

各種コード

NII論文ID(NAID)

500001322825

NII著者ID(NRID)
  • 8000001525886
DOI (JaLC)

10.14943/doctoral.k13394

DOI

info:doi/10.14943/doctoral.k13394

本文言語コード

jpn

データ提供元

機関リポジトリ / NDLデジタルコレクション

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博士論文 / 北海道大学 / 理学

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