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博士論文 / エラスチンに由来する短鎖型ペプチドの開発と応用 Development and Application of Short Elastin-Derived Peptides

著者

書誌事項

タイトル

エラスチンに由来する短鎖型ペプチドの開発と応用

タイトル別名

Development and Application of Short Elastin-Derived Peptides

著者名

谷口卓

学位授与大学

九州工業大学 (大学ID:0071) (CAT機関ID:KI000844)

取得学位

博士(情報工学)

学位授与番号

甲情工第307号

学位授与年月日

2016-03-25

注記・抄録

エラスチンタンパク質は細胞外マトリックスの一種で、大動脈をはじめ、項靭帯、皮膚、子宮、弾性軟骨、黄色靭帯などの弾性が必要な組織や臓器に存在している。エラスチンの最も重要な機能は弾性機能であり、これらの組織に適切な割合で存在し、弾力性を与えている。エラスチンの構造上の特徴として、架橋領域と疎水領域が交互に配置されていることがあげられる。疎水領域には様々なアミノ酸の繰り返し配列が存在するが、その中でも Val-Pro-Gly-Val-Gly(以下VPGVG と略)から成るペンタペプチド繰り返し配列は、エラスチンの弾性機能の発現に重要なコアセルベーションと呼ばれる温度依存的な分子の自己集合、解離の性質をもち、エラスチンの弾性機能を担う配列であると報告されている。これまで、エラスチンの弾性発現についていくつかの分子モデルが提示されてきたが、未だ弾性発現メカニズムは解明されていない。一方、エラスチンは弾力性やコアセルベーションなどの性質から、様々なバイオマテリアルへの応用が期待されている。特に、VPGVG から成る繰り返し配列Poly(VPGVG)は高いコアセルベーション能を有しており、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の担体をはじめ広く研究されている。しかし、使用されているVPGVG の繰り返し回数は少なくとも40回以上であり、素材を作製する上で技術面、コスト面における問題があり、未だに産業界での利用には至っていない。これまでに、VPGVG 配列とコアセルベーション能に関して、ポリマーではコアセルベーション能を示すが、繰り返し回数が1であるモノマーでは示さないと報告されている。さらに、繰り返し回数が多いほどコアセルベーション能も強くなることがわかっている。しかし、コアセルベーションを示すために最低限必要な繰り返し回数に関しては議論されていなかった。コアセルベーションを示す為に最低限必要な分子サイズを確認し、コアセルベーションを示す配列と示さない配列の構造的な相違を調べることが、弾性機能の分子メカニズム解明には必要となる。また、その分子サイズが分かれば、従来よりも短いペプチドで、マテリアルに最適なコアセルベーションを示すようなペプチドが設計可能となり、応用面への貢献も期待される。本研究ではコアセルベーションの分子メカニズムの解明と短鎖ペプチドのバイオマテリアルへの応用を目標とし、以下の章立てで記述した。第1章では、エラスチンのコアセルベーション能と構造に関する一般的な知見及びバイオマテリアルへの応用研究について述べ、本研究の重要性について記載した。第2章ではエラスチン由来ペプチドの分子サイズ、コアセルベーション能、分子構造の系統的な研究を行うことで、コアセルベーションを示すペプチドの構造的な特徴を調べた。コアセルベーションには分子自身の疎水度が重要であるという報告をもとに、ここではVPGVG 配列における1位のVal をIle に置換した一連のエラスチン由来ペンタペプチドアナログH-(IPGVG)n-NH2 (n=1-10)を作製しコアセルベーション特性の解析を行った。その結果、VPGVG 配列と比較するとより短い配列で非常に高いコアセルベーション能を示すことが明らかとなった。特に、H-(IPGVG)n-NH2 (n≧7)は自己集合能を示したが、H-(IPGVG)n-NH2 (n=1-6)では自己集合能を示さず、繰り返し回数による明確な違いが確認された。よって、次にこれらのペプチドを用いて詳細な構造解析を行った。その結果、コアセルベーションを示す自己集合性ペプチドは温度に応じて構造が変化し、低温ではランダム構造、高温ではII 型β ターン構造を示した。一方、コアセルベーションを示さないペプチドでは高温においてもランダム構造が多い結果となった。即ち、コアセルベーション能を示すペプチドの構造上の特徴として、主にII 型β ターン構造を含んだより規則的な構造を持つということが明らかとなった。これらの結果は、繰り返し回数が40以上のPoly(VPGVG)で報告されている構造とも類似しており、短い配列でも同様な構造をとることを示した。第3章では、バイオマテリアルに利用できるような短鎖ペプチドの探索を目的としてペプチドを設計し、そのコアセルベーション能を解析した。第2章の結果から、VPGVG配列の1 位のVal の疎水度をさらに上げることで、コアセルベーション能もさらに向上すると考え、Val をPhe に置換したFPGVG 配列を作製した。コアセルベーション能を解析した結果、H-(FPGVG)n-NH2 (n=5)がポリマーと同等の自己集合能を示した。僅か25残基からなるペプチドが200 残基以上のペプチドと同等の性質を示す事は驚くべきことであり、本研究で初めて明らかとなった。この成果から、より安価なバイオマテリアル用素材の開発が期待される。さらに、これまでコアセルベーション能には分子自身の疎水度が重要である事が一般的に認識されていたが、ここでは芳香環がコアセルベーション能を促進している可能性も示唆された。第4章では、第3章の結果を受け、コアセルベーションに対する芳香族アミノ酸の影響を調べた。ここでは、第3章で検討したFPGVG 配列をもとに、さらに疎水度の高いTrp を含んだWPGVG 配列と疎水度の低いTyr を含んだYPGVG 配列から成る繰り返し配列を作製した。同じ配列を比較すると、コアセルベーションに対する一般的な知見と同様に、すべての配列において疎水度の増加に伴いコアセルベーション能も増加した。特に、(WPGVG)3に関しては僅か15 残基でありながらコアセルベーション能を示した。一方、(YPGVG)5 は第2章で検討した(IPGVG)5 よりも疎水度が低いにも関わらずコアセルベーションを示した。このことは、コアセルベーション能が疎水度に加えて芳香環によっても促進される事を示唆している。一般的な知見に加え、コアセルベーションを促進する別の因子の発見は、分子設計の上で重要となるだろう。第5章では、第3章、第4章で開発した高いコアセルベーション能を有するエラスチン由来短鎖ペプチドを用いて、実際にポリマーの代替素材としてバイオマテリアルへ利用することが可能であるかどうかの検討を行った。ここでは、エラスチンが広く研究されているDDS 担体としての可能性を検討した。ここまでの成果で、コアセルベーションを示すペプチドで最も短い配列は(WPGVG)3 であったが、水溶液の調整が非常に困難であるため、ここでは次に短いペプチドである(FPGVG)5 を用いて検討を行った。まず温度変化に伴う粒子径の変化を測定したところ、高温においてDDS 担体として有用なナノ粒子の形成が確認された。続いて、このナノ粒子にモデル薬物である色素を包含させることを試みた結果、温度変化という簡易な方法で包含することがわかった。さらに、この色素包含体の除放試験を行った結果、3 週間にわたり緩やかに除放されることが観察された。これらの結果は、僅か25 残基から成る短鎖ペプチドがバイオマテリアルとして有用であることを示唆している。最後に第6章を結論とし、ここまでの成果をまとめた。本研究では、様々なエラスチン由来ペプチドアナログを設計して系統的な検討を行った。その結果、コアセルベーションに必要な分子構造、分子サイズ、促進因子など、エラスチンの弾性機能解明やバイオマテリアル用素材としての設計に関する様々な知見が得られた。

九州工業大学博士学位論文 学位記番号:情工博甲第307号 学位授与年月日:平成28年3月25日

第1章 序論|第2章 イソロイシン置換による疎水度を向上させた自己集合性ペプチドの設計|第3章 フェニルアラニン含有自己集合性ペプチドの開発|第4章 芳香族アミノ酸を導入した短鎖自己集合性ペプチドの開発|第5章 フェニルアラニン含有ペプチドを利用したドラッグデリバリーシステム用担体としての検討|第6章 結論

平成27年度

九州工業大学博士学位論文(要旨)学位記番号:情工博甲第307号 学位授与年月日平成28年3月25日

キーワード

エラスチン, コアセルベーション, 二次構造, ドラッグデリバリーシステム

各種コード

NII論文ID(NAID)

500001039544

NII著者ID(NRID)
  • 8000001150752
本文言語コード

jpn

データ提供元

機関リポジトリ / NDLデジタルコレクション

博士論文 / 九州工業大学 / 情報工学

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